草木染めをしていると必ずと言っていいほど登場する「媒染」という言葉。媒染ってなんのこと?今回は媒染についてわかりやすく紐解いていきます。
媒染はしてもしなくてもいい?
早速本題です。媒染とは染料と繊維(糸や生地など)をくっつける工程のこと。「え、染液に布を入れるだけで染まるんじゃないの?」と言いたいところですよね。その通りです。草木染めの基本的な手順は、①植物を煮出す②繊維(糸、布など)を浸ける③すすぐ、だと以前のよみもの「ラオスの草木染め」でご紹介しました。この基本的な工程だけで染まります。しかし、実はこのままだとうまく色が定着しないのです。色が薄付きだったり、すぐに色落ちしてしまったりと、せっかく時間をかけて染めたのにちょっと残念なことになってしまいます。そこで登場するのが媒染という工程。媒染剤を溶かした媒染液に繊維を浸すことで、発色がよくなる、色落ちしにくくなる、といった効果があります。例えば、お料理をする方ならご存知だと思いますが、ナスのお漬物を作るときには綺麗な紫色を保つためにミョウバンを使います。実はそれと同じ要領なのです。
どうして媒染で発色効果や色止め効果が出るの?
これを細かく説明すると化学の深いお話になってしまうので簡単にお話しますね。媒染には主に金属を使います。実際には金属を水に浸けたものを媒染液として使うのですが、ここに金属イオンというものが含まれます(なんだか高校の化学でやったような、やっていないような…)。この金属イオンが染料と繊維を強く結びつけてくれる役割を持ち、おかげで染料が溶け出す、つまり色落ちすることを防ぐという原理です。
浸けるだけ。媒染の方法
では実際に媒染はどのように行うのでしょう。まずは媒染剤となる金属を水に浸けて媒染液を作ります。その媒染液に糸や生地などの染める繊維を浸す、たったこれだけです。時間の目安は約20分。草木染めの基本の手順の中に、この「媒染液に20分浸ける」という工程を追加するだけ。では、その媒染のタイミングや媒染液の種類、作り方についても見ていきましょう。
魔法の瞬間、媒染のタイミング
この媒染の工程、草木染めのどのタイミングに入れ込んだらいいのでしょう。媒染には先媒染と後媒染があります。先媒染とは染料で染める前に媒染をすること、後媒染とは染料で染めた後に媒染をすることを言います。
基本的には後媒染と考えてもらっていいのですが、媒染剤や素材によっては先後どちらでもいいもの、先媒染でなければいけないものもあります。ラオスでは染料と媒染剤の種類によって先か後かが異なりますが、ほとんどが染色した後に媒染をする後媒染です。後媒染では、染色した糸や生地が媒染液に浸けた瞬間に色が変わります。濃い色に変わるときは特に、この瞬間がまるで魔法のよう。これぞ草木染めの楽しさと言っても過言ではありません。
媒染液に浸けて色が濃くなった糸
媒染剤の主な種類
媒染には主に金属が使われると話しましたが、使える物質はある程度決まっています。
主な金属の媒染剤
・アルミニウム
・鉄
・銅
これらはそのまま使える媒染剤や媒染液として染料店やネットショップで簡単に買うことが出来ます。ちなみに、ラオスでは媒染剤や媒染液として販売していないので(もしかしたら見つけられないだけかも?)、媒染液はお手製です。アルミニウムはミョウバン、鉄は泥もしくは錆びた鉄釘をお酢で煮たものを使います。銅は手に入りにくいからか、あまり使うシーンを見たことがありません。
アルミニウム媒染に使われるミョウバン
また金属を使わずに酸やアルカリで媒染するものもあります。代表的なものでは、
・酸→米酢、クエン酸
・アルカリ→草木灰、石灰、重曹
これ以外にも媒染剤として使われる物質がありますが、媒染剤の種類によって媒染したあとの繊維の色が変わってきます。基本的には金属だと重いものほど暗い色に。つまり、アルミニウム、鉄、銅の順に色が暗くなります。ただ染料との相性もあり、例えばアルミニウムは暖色系の色を明るくはっきりした色にしてくれますが、寒色系だと暖色系ほど大きな変化を感じないものが多いです。鉄媒染は暗めのシックな色にしてくれるので、落ち着いた色やくすみ色がお好きな方におすすめです。
媒染液の作り方
作り方は至って簡単。先ほどご紹介した媒染剤を水に浸ける、もしくは溶かすだけ。その分量はお好みでいいのですが、一般的には媒染剤が多ければ多いほど濃い色に仕上がると考えてください。大体の目安としては、
染めるものの重量の5% → 仕上がりの色は薄め
染めるものの重量の10% → 仕上がりの色はやや濃いめ
染めるものの重量の15%以上 → 仕上がりの色は濃いめ
媒染剤の種類やその濃度、媒染液に浸けておく時間でも色が変わってきます。鮮やかになったり、明るくなったり、渋くなったり、時にはまったく違う色に変わったり。
代表的な染料や媒染液の組み合わせはあるものの、この材料にはこの媒染液を使わないといけないという決まりはありません。ただ発色や色落ち防止の効果だけでなく、色の変化を楽しめるのも媒染の特徴の一つです。いろんな組み合わせを試してみることで、新しい色が生まれるかもしれません。