ラオスの草木染めVol.2 ピンク


家の庭や近くの森で材料を調達するラオスの草木染め。前回は初心者にも簡単なタマネギの皮を使った草木染めを紹介しました。

前回の記事はこちらから→「最も簡単!ラオスの草木染めVOL.1 茶色

草木染めのことやラオスの染め子さんたちの様子はこちら→「ラオスの草木染め

さて第2弾の今回は、可愛らしいピンクを紹介していこうと思います。

 

本当に草木染め?!ピンクの材料は?

本当に自然のもので染めたのかと疑いたくなるくらい、とても鮮やかなピンク。初めて見たときは信じられませんでしたが、正真正銘の草木染めです。材料には「ラック」を使っています。ラックって、あまり聞き馴染みがありませんよね。和名では「紫紘(しこう)」とも呼ばれ、木に繁殖するラックカイガラムシ(=ラック虫)という昆虫から出る樹脂状の分泌物です。昔はミツバチ、蚕とともに三大益虫とされていたほど、様々な用途に使われるラック虫。主に熱帯から亜熱帯にかけて生息し、インドやタイなど南アジアから東南アジア周辺で見られます。日本には奈良時代に伝わったとされていますが、残念ながら今の日本では見ることが出来ないようです。そんな日本では珍しいラック染めをご堪能ください。

 

必要な材料

・染めるもの(糸、布など) 200g

・ラック 400g

・ミョウバン 100g

・タマリンド 200g

・水 6L

 

まずは材料の説明から。ラックはこのような塊になっています。

この大きさでかなりの量を染めることができるのですが、古いものだと色が綺麗に出ないのでこのまま保存して何年も使えるというわけではないのです。古いお茶っ葉だと色が出ない、といった感覚に近いでしょうか。

ミョウバンは媒染剤として使います。(媒染についてはこちらから→まるで魔法!草木染めにおける「媒染」とは

タマリンド、みなさんご存知ですか?ラオスでは一般的に食べられるフルーツ。ラック虫と同じくインドやタイなどの南〜東南アジアに見られますが、アフリカが原産のフルーツなんです。見た目は豆。このサヤを剥いて中に入っている果肉を食べます。甘酸っぱくて少しくせのあるお味ですが、ラオス人はみんな大好きで、食後に食べたりおやつ時間に食べたりします。

 

染めるための下準備①

ラオスでは糸の状態で染めるので、まずは糸の精練をします。精練とは、汚れや不純物を取り除いて染まりやすくするための工程。染めるもの(糸、布など)を水に約20分浸け置きし、その後灰汁で煮ます。この灰汁は糸や布のヌメリ(油などの成分)を取るのが主な目的なので、気にならなければ水だけで煮ても問題ありません。糸や布のヌメヌメがなくなったら冷たい水でしっかりと洗って絞って干します。染める直前に再び水に5~10分程度浸けておくことで、さらに染めやすくなります。

 

染めるための下準備②

糸の下準備と同時進行で、ラックの下準備をします。実はラックは前日からの準備が必要。まず塊を細かく砕きます。ラオスでは杵と臼のような昔ながらの道具を使って砕きます。必要な量だけ砕き終えたら、ラックに水を加えて一晩置きます。ラックの染料を水に溶かし出す工程です。

 

染色の手順

ざっくりとした手順はこちら。

①先媒染する

②染液を作る

③糸を煮る

④水ですすぐ

 

①先媒染する

ラオスでは染色後に媒染する「後媒染」が多いと以前説明しましたが、今回のラック染めは先媒染をします。つまり、染色の前に媒染液につけます。ミョウバンを水に溶かしたものに20分程度糸を浸けておくだけ。そうすることで、色が入りやすくなり、はっきりした色に仕上がります。

 

②染液を作る

前日に水に浸けておいたラックを一旦濾して液だけにします。そこにタマリンドを揉んで濾したものを加えます。タマリンドには赤褐色の色素があり、アルカリ性つまりミョウバン媒染液とくっつくことでその本領を発揮。赤系色を強めてくれる効果があります。この色素や効果については、ラオスのほとんどの染め子さんたちは理解しておらず、代々受け継がれてきた方法で染色を行っているだけだと言います。伝統ってすごいなぁと思う瞬間。そして最後に糸を浸けていたミョウバン媒染液を加え、この中で一度糸を入れて揉みます。色を染み込ませるイメージです。

 

③糸を煮る

糸を軽く絞って染液に入れて約1時間煮ます。絡まりや染めムラを防ぐために、適宜糸を上げ下げしながら染めていきます。

 

④水ですすぐ

糸を鍋から上げて十分な量の水で色落ちがなくなるまで洗います。しっかり絞って直射日光の当たらない風通しのいい場所にて干します。乾いたら完成。

 

ちなみに、前回紹介したタマネギ染めなどでは、色が薄いなと感じたときは染色を繰り返して色を濃くしていくのですが、ラックの染液は一度染めてしまうとそれ以上の色は出にくいので、ほぼ一発勝負みたいなところがあります。そのせいもあってミョウバン媒染だけでなく、タマリンドも使うレシピになっているのではないかと思います。

 

ラオスの染色レシピはそのほとんどが先祖代々受け継がれてきたもの。染め子さんたちはレシピやその技術を知っていても、その工程の意味や訳を知らない人がほとんどです。でもそこを考えることも私たちにとって楽しみの一つ。ラオスの染色には科学的根拠として残されているものがなかなか見つからないのですが、私たちの一つの解釈として捉えていただければと思っています。みなさんの解釈やご意見があればぜひお寄せください。今回のラオスの草木染め紹介はここまで。次回の色もお楽しみに!